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評価値ディストピアの今後

評価値ディストピアの今後

将棋界において、評価値ディストピアという言葉が一時期流行った。 佐藤天彦九段が、ネット中継で語った事に起因している。

コンピュータ将棋が人間よりもはるかに強くなってから、数年が経過した。 以前はある程度棋力がある人でなければどちらが有利なのかというのを知ることが出来なかったが、今は評価値という分かりやすい数値で将棋に明るくない人でもどちらが勝っているか負けているかが分かるようになっている。

AI研究が過激化し、今はどの棋士も似たような序盤を指している。研究が深い方が勝つというのは、平成に入ってから出来たフォームだが、それがさらに精錬されているイメージだ。 2020年頃までは、角換わり腰掛銀が大流行したが、2021年になると、後手側で角換わり腰掛銀を採用する人が圧倒的に減ってしまった。 ある程度の結論が出てしまったのだろう。 最近は研究があまり進んでいなかった相掛かりが積極的に指されている。

居飛車の移り変わり

居飛車の戦法と言えば、矢倉、横歩、角換わり、相掛かりという幾つかの選択肢があったが、矢倉、横歩に関しては以前のように指されることがぐっと減ってしまった。 角換わりも、矢倉や横歩同様に廃れていってしまうのかもしれない。

持ち時間の短い将棋では、時たま見かけるものの、持ち時間の長い将棋では事前研究をぶつけるということで、その時流行している最先端の戦法が採用されているというイメージだ。

戦法に明るい人たちからすると、今はどこかで見たような戦型ばかりで、面白みをあまり感じられない面があるかもしれないが、そうでない人たちにとっては未知の局面をある程度の指標を持って楽しめるというのは、今までに無かったメリットであり、分からなかった将棋が分かるようになったというその事実だけでも、十二分に価値がある。

コンピュータ将棋の盲点

コンピュータ将棋は、様々な学習が進み、振り飛車=ほぼ不利になるという結論に達している。 人間同士が指すならともかく、コンピュータ同士で対抗形や相振りになることはほとんどない。

単純な手の損得で考えるならば、攻撃力の高い飛車の位置をわざわざ変えて使っているので、純粋な1手損だという評価なのかもしれない。 また、初期の飛車の位置が非常に良い位置なので、そこから動かすだけでも評価が下がるという仕組みなのかもしれない。 真意はわからないが、いずれにせよ、振り飛車にとっては受難の時代になっている。

しかしながら、振り飛車党はみな強情で変わった人たちが多いので、どれだけ不利だと分かっていても飛車を振る。 結局、対戦相手は人間であり、人間が持つ「感覚」とコンピュータが示す「感覚」にはまだまだ圧倒的な差がある。

コンピュータ将棋は、針の穴を通すような攻めを得意としているため、人間がさしこなすためにはかなりの力が必要である。 そのため、表面上は評価値で良いとされている局面でも正解手以外は全部ダメというパターンが数多くあり、評価値だけではその局面の有利/不利を判断出来ないというのが実情である。

人間側がどんどん強くなれば、いずれはコンピュータの持つ「感覚」を取得出来ると思うのだが、そうなるには少なくともあと30年くらいは掛かるのではないだろうか。 今は、ちょうどその感覚に追いつこうとしている時代であり、いつかその感覚を普通に身に着けた次世代型の棋士たちが現れてくるに違いない。

藤井三冠に追いつく

現代の棋士でコンピュータの「感覚」に最も近い感覚を持っているのが藤井三冠である事に異論を唱える人はいないであろう。 類まれなる終盤力に加え、コンピュータ将棋をベースにした序盤中盤での正確さは全棋士の中でもトップクラスであり、あるいは、コンピュータ相手にも勝ち越せるのではないだろうかとさえ思わせる将棋の組み立て方をしている。

ちょうど今日も豊島竜王相手に七番勝負の第2局を戦っている。 後手番ながら積極的に攻めているのが印象的だ。 今はまだ、全棋士が藤井三冠の強さに追いついていないが、あと1~2年もすれば皆がその領域に辿り着くに違いない。 棋士は、皆天才であり、しかも努力を欠かさない人たちだからだ。 羽生九段がかつて七冠王になった時も、他の棋士たちは羽生九段の強さに対応していった。 時間は掛かったものの、多くの棋士は十二分に羽生九段を攻略している。 藤井三冠も同様である。 今はまだ先行して走っているだけで、トップ棋士たちはすぐに追いつくに違いない。

それほど、今の棋界は人が充実しているし、勉強環境も整っている。 コンピュータ将棋に関しても多くの人がサポートしていて、将棋はますます楽しくなっている。

評価値ディストピアは、一時的なもので、それに振り回される日々もそんなに長くはないだろう。 人類は、常に壁を乗り越えて来たのだから、評価値ディストピアという壁もまた、乗り越えていくに違いない。

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