将棋のお話です
プロの棋士で永瀬拓矢五段という新鋭がいる。今時珍しい三間飛車党で、受けが非常に強い棋士である。しかし、彼がプロ棋士の中でも特に際立っているのは千日手を厭わないその姿勢である。
僕が彼を意識したのは、確か去年のNHK杯であった。相手は佐藤康光九段(当時)。変態的独創的な戦法を駆使する佐藤九段相手に、彼は何と二度も千日手を成立させたのだった。
千日手は、成立すると先後を入れ替えて指すという現行のルールがあり、棋士によっては後手番で千日手を迫るという手段を選ぶ棋士がいるくらい、将棋の分野でも特に神経質に扱われている手法である。
その千日手を全く厭わずに連発させる棋士が永瀬五段なのである。実際、昨日の放送でも彼は木村九段相手に千日手を成立させた。彼の戦績を追っていると結構な頻度で千日手が出ている。もちろん、他の棋士だって千日手が無いわけでは無いが、彼の場合、突出してるイメージがある。
以前に将棋雑誌で読んだのだが、彼自身千日手は狙っている訳では無いものの、少しでも長く将棋を指す為に千日手を選択するという事があると書いてあった。
つまりは、とてつもなく彼は将棋馬鹿なのである(褒め言葉)
将棋馬鹿で思い出したが、先だっての王座戦も将棋馬鹿二人の対戦であった。
羽生善治、渡辺明という二人の将棋馬鹿が延々と複雑な将棋を指し続けた見事な勝負だった。
普通、指し直し局というのはあっさりしているものなのだが、タイトル戦での指し直しは大抵死闘になるケースが多い。集中力の限界まで追い詰めて指している姿は、常人には決して真似出来ない事であり、彼らが天才且つ職人且つ芸術家且つ研究者且つ求道者である事をまざまざと見せつけられた。
僕個人としては、千日手はあまり好きではない。将棋をたくさん指せるという理論は理解できるが、同じ相手と別の将棋をすぐにさっと指しなおすほど、体力が無いと思う。
(最も、学生時代なら或いは出来たかもしれない。負け続けても延々と指し続けた18歳の夏が懐かしい)
永瀬拓矢五段はこれから注目される棋士になる可能性がある。知っている人は知っているが、本年度の新人王戦の決勝に進んだからだ。実際、千日手が多いものの、彼の勝率は中々高い。しかも、昨今では若い部類でプロになった一人でもある。もしかしたら、タイトル戦に顔を出すようになるかもしれない。その時は、七番勝負ではなく、十四番勝負とか、ヘタしたら十五番勝負などというとんでもない死闘が繰り広げられるのかもしれない。
付きあわせれる相手はたまった物では無いかもしれないが、きっと、プロ棋士という生き物はそれでも戦ってしまうのだろう。
なぜなら、彼らほど将棋を愛しのめり込み打ち込んでいる人種はこの地球上には誰も存在しないからだ。
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